【実録・午後の部】「これからどうすればいいのだろう」。難しい仕事を割り込めない

未分類

胃の痛みが、昼食を拒絶する

12時を過ぎ、工場の機械が止まる。
あれほど鳴り響いていた騒音が嘘のように消え、工場内は不気味なほどの静寂に包まれる。

パートさんたちは休憩室へ向かい、正社員たちもそれぞれの時間に入る。
本来なら、ここで一息つく時間のはずだった。

だが、私は椅子から立ち上がることができない。

空腹のはずなのに、食べ物を受け付ける気がまったくしない。
胃の奥がじんわりと熱く、内側から締め付けられるような感覚が続いている。

午前中に浴びせられた質問の嵐。
誰よりも動き、誰よりも判断し続けた3時間。
それにもかかわらず、デスクに残った成果は「FAX1通」。

その虚しさが、胃液と一緒にせり上がってきて、食欲を完全に奪っていた。

「……昼は、いいか」

冷めきったお茶を一口飲み、私は再びパソコンの画面に向かう。

休憩時間。
それは私にとって、唯一誰にも邪魔されずに“考える”ことができる、あまりにも貴重な時間だった。


「少しの余裕」が生む、残酷な選択

午前の混乱が一段落し、午後の段取りを確認する。

一度作業が軌道に乗れば、午後は比較的落ち着く。
その「わずかな余裕」を感じ取った瞬間、私の頭の中では、再びスケジュールとの格闘が始まる。

――今なら、あの難しい仕事を入れられるんじゃないか。

納期が厳しく、技術も判断力も必要なオーダーメイド案件。
後回しにすればするほど、後で自分の首を絞めることになる仕事だ。

だが、私はその一歩を踏み出せない。

なぜなら、私はこの後、営業に出なければならない。
さらに、いつ突発的な呼び出しが入り、工場を空けることになるかも分からない。

もし、私が不在の間に難しい仕事を任せて、そこで作業が止まったら。
現場は完全にストップし、納期は崩壊する。

その恐怖が、私の判断を鈍らせる。

結果、私はまた「無難な指示」に逃げてしまう。
挑戦しないことで守れるものもあるが、同時に、成長は確実に止まっていく。

分かっている。
分かっているのに、この体制では、その恐怖に打ち勝てない。


容赦なく震えるスマホと「いつもの時間」

そんな思考を遮るように、スマホが震えた。

表示された名前を見た瞬間、心臓が一段、重くなる。
近隣の大きな工場。突発的な呼び出しだ。

会社としては、即答で「今すぐ行きます」と言うべきなのだろう。
それが次の仕事に繋がる可能性もある。

だが、現場を預かる立場の私には、それが言えない。

今、私が工場を出れば、8人の作業が止まる。
指示を待つ手、判断を待つ視線、不安そうな表情。

私は一瞬の沈黙の後、いつもの「魔法の数字」を口にする。

「……16時30分に、伺います」

それが、現場をなんとかまとめ、責任を持って工場を出られる最短の時間だった。


16時30分の「撤退」と、逃げの指示

16時。
パートさんたちが帰る。

残った正社員2名に、居残りの指示を出す時間がやってくる。

だが、ここでも私は“攻め”に出られない。
私が不在の間にトラブルが起き、彼らのプライドを傷つけてしまうリスク。
あるいは、「逆パワハラ」と受け取られるリスク。

それを避けるために、私はまた、自分が一番嫌っている指示を出す。

「もしトラブルが起きたら、無理しなくていい。倉庫の片付けをやっておいて」

逃げだ。
完全な逃げの指示だ。

だが、それでも彼らの機嫌を損ねず、現場に居続けてもらうためには、これしかなかった。

倉庫の片付けでは、難しい仕事は一切進まない。
納期は遠のき、技術は育たず、問題は先送りされていく。

それでも、私はその指示を出すしかなかった。


自問自答を抱えたまま、ハンドルを握る

「これから、どうすればいいんだろう」

答えの出ない問いを抱えたまま、私は営業車のエンジンをかける。

窓の外を流れる景色を見ながら、頭に浮かぶのは工場のことばかりだ。

倉庫の片付けをしている間に、本来進めるべきオーダーメイドの座席カバーが、埃をかぶっている光景。
それを想像するだけで、胸が苦しくなる。

管理者として、私は失格なのかもしれない。

だが、営業も、現場管理も、トラブル対応もすべて一人で背負い、
「断るな」と「完璧にやれ」の板挟みに遭っているこの状況で、
これ以上、何をどうしろというのだろうか。

そう自分に問いかけながら、私はまた、現場を後にした。

タイトルとURLをコピーしました