営業が終わっても、一日は終わらなかった

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営業回りが終わっても、私の「外回り」は終わらない。

営業先の近くにある工場が、21時まで残業している。
その時間に合わせて、座席カバーの取り付け作業を行う段取りになっているからだ。

日中は飛び込み営業。
夜は現場作業。

それが、この会社での「普通」だった。


疲労困憊のまま挑む、神経を削る仕事

一日中、知らない会社のインターホンを押し続け、
断られ、無視され、時には露骨に嫌な顔をされる。

その合間に、鳴り止まない電話。
工場から、事務所から、営業先から。

頭も心もすり減った状態で、
私は夜の工場へ向かう。

これから行うのは、座席カバーの取り付け作業だ。

一見すると単純そうに見えるかもしれない。
だが実際は、非常に神経を使う。

力仕事ではない。
しかし、少しのズレ、わずかなシワが、そのまま不良品になる。

引っ張りすぎてもダメ。
緩くてもダメ。

指先の感覚と集中力をフルに使う、
「静かな消耗戦」だ。

本来なら、万全な状態で臨むべき作業だろう。
だが、そんな余裕はない。

疲労困憊の体に鞭を打ち、
キチキチに詰め込まれた作業量をこなしていく。

休みたい。
正直、何も考えたくない。

それでも、納期は待ってくれない。

一件、また一件。
無言で、ただ手を動かし続ける。


頭に響く、社長の一言

作業をしている最中、
頭の奥で、あの言葉が何度も蘇る。

「その程度の取り付け、俺ならお前の5倍は早いぞ」

現場を見たこともない。
今の仕様の複雑さも知らない。

ただ「できる・できない」を
上から決めつけるだけの言葉。

喉元まで、言葉がせり上がる。

「それなら、社長がやってください」

でも、私はそれを飲み込む。

言ったところで、何も変わらない。
返ってくるのは、逆ギレか、理屈のすり替えだけだ。

その相手をするエネルギーが、
もう私には残っていなかった。

反論する気力があるなら、
一秒でも早く作業を終わらせて、
この場所を離れたかった。


夜が深まるにつれて、静かになる工場

21時。
ようやく、取り付け作業が一区切りつく。

周囲の工場の明かりが、
一つ、また一つと消えていく。

作業服のまま、
静まり返った敷地を歩く。

そこから、自分の工場までは、まだ距離がある。

深夜の道路を、一人で走る。
ラジオもつけず、ただハンドルを握る。

頭の中は空っぽなのに、
体だけが重い。

工場の駐車場に車を止め、
ようやく帰路につけたのは23時だった。


「これで、やっと今日が終わる」

エンジンを切った瞬間、
ようやく一日の終わりを実感する。

「これで、やっと今日の営業が終わった……」

営業回りから、夜間の取り付け作業へ。

本来、別々であるはずの仕事を、
一人で、当然のように背負わされる毎日。

やり場のない不満。
社長との埋められない溝。

それらを抱えたまま、
私の長い一日は、静かに幕を閉じる。

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