仕事初めから、心がすり減る会社で
残念ながら、今日から仕事初めだ。
カレンダーがめくれた喜びなど、微塵もない。
あるのは、胃の奥が重くなるような、底なしの憂鬱だけだった。
私の仕事初めは、遠方のお客様への「挨拶回り」から始まる。
目的地は、家から車で片道2時間。
ただし、この時期の道路は凍結している。
3時間、下手をすれば4時間は見ておかなければならない。
社長から連絡が来たのは、前日の夜21時だった。
「明日は〇〇方面へ挨拶に行ってくれ」
社長にとっては、これは「緊急の連絡」ではないらしい。
当日の朝に言っても、出発できる時間なら問題ない。
そう本気で思っている人間だ。
相手の都合も、こちらの生活も、眼中にない。
私は朝4時に起き、冷え切った暗闇の中、ハンドルを握った。
「挨拶」という名の、無謀な飛び込み営業
凍結した路面に神経をすり減らしながらの長時間運転。
それだけで、精神的なエネルギーは半分以上削り取られる。
そんな運転中、スマホが鳴った。
社長からのLINEだった。
そこに並んでいたのは、挨拶先のリスト。
いや、正確には「挨拶先」ではない。
一度も取引のない会社を含めた、
実質的な飛び込み営業リストだった。
私は、営業が苦手だ。
特に、何の面識もない会社に突然入っていくのは、
喉が焼けつくほど緊張し、心を激しく消耗する。
受付の人や事務員さんに、必死で商品説明をする。
しかし、うちの製品はオーダーメイドのニッチな商品だ。
短い説明で価値を理解してもらうのは、ほぼ不可能に近い。
1%の可能性に、心を削る働き方
担当者に会える確率は1割。
その中で受注につながるのは、さらにその1割程度だろう。
つまり、100軒回って1軒決まるかどうか。
これが良い成績なのか、悪い成績なのか、私には分からない。
ただ一つ確かなのは、仕事初めの初日から、
工場のメンバーが誰一人営業に出ていない中、
私だけが孤独に「数打ち」の営業を強いられているという事実だ。
「工場長として現場を回りたい」
「でも、営業に行かなければ数字が立たない」
現場を知っているからこそ、このやり方の非効率さが痛いほど分かる。
そして何より、心が持たない。
初日から感じる、埋められない溝
車を走らせながら、ずっと疑問が消えなかった。
なぜ、今日でなければならないのか。
なぜ、私だけが。
社長の理想論と、現場の現実。
その溝は、年が明けたところで、何一つ埋まっていなかった。
私個人を頼ってくれる既存のお客様への対応も、
この移動時間によって、どんどん削られていく。
「こんな働き方を、あと何年続けるつもりだろう」
凍結した窓ガラスの向こう、
ゆっくりと昇ってきた朝日に目を細めながら、
私は逃げ出したい気持ちを、必死に押し殺していた。
仕事初めで分かってしまうこと
仕事初めというのは、
その会社の「今年の姿勢」が一瞬で分かる日でもある。
人をどう扱うのか。
現場をどう見ているのか。
そして、誰の負担の上に成り立っているのか。
年が変わっても何も変わらない会社は、
この先も、きっと変わらない。
もし、仕事初めから心がすり減っているなら、
それはあなたが弱いからではない。
その環境が、もう限界なだけだ。

