【過去回想】工場長は魔法使いじゃない

パワハラ

「新しい工場だから仕方ない」という言葉で、片づけられるもの

「新しい工場だから、まだ人も育っていない」

その言葉の意味は、痛いほど分かっている。
立ち上げ期で、人が足りない。経験も浅い。余裕なんてない。
それ自体を否定したいわけじゃない。

けれど、どうしても理解できないことがある。
それは、会社としての「人の使い方」だ。

私は工場長として、何度も社長に要望を出してきた。
「工場を管理できる、専任の人間を一人置いてほしい」と。

それは贅沢な要求ではない。
現場を守るための、最低限のお願いだった。


1. 「現場不在」という名の時限爆弾

現在、私の工場には6名のパートさんがいる。
会社全体で見れば、もっとも人数が多い部署だ。

ただし、彼女たちはまだ経験が浅い。
扱っているのは、量産品ではなく、複雑なオーダーメイド製品。
工程も判断も、毎回微妙に違う。

正直に言えば、
パートさんたちだけで現場を回すのは、無理がある。

本来であれば、私が工場の中心に座り、
判断し、調整し、トラブルを未然に防ぐ立場にいるべきだろう。

しかし現実は違う。

私は営業にも行く。
現場への取り付け作業にも出る。
気づけば、工場を空ける時間の方が長い日すらある。

「私がいない間、誰が現場をまとめるのか」

この問いに、明確な答えは用意されていない。

だから私は、
せめて一人でいいから、管理ができる社員を常駐させてほしいと、
何度も伝えてきた。


2. 社長の「完璧な指示」という理想論

そのたびに返ってくる社長の言葉は、いつも同じだった。

「工場長が完璧な指示を出しておけば、誰がいても問題ないはずだ」

理想論だ。
しかも、現場を知らない人間の理想論ほど、冷たいものはない。

オーダーメイドの仕事は、
指示書どおりに進むことの方が少ない。

材料の個体差。
加工時の微妙なズレ。
前工程の影響。

その場その場での判断が、数分おきに求められる。
それを、不在の人間がすべて予測して
「完璧な指示」に落とし込むなど、現実的ではない。

それでも社長は言う。
「指示が足りないんじゃないか」と。


3. 「増員」の中身を聞いて、言葉を失った

結果として、新しく入ってきた社員は2名いた。
しかし、彼らは工場の管理要員ではなかった。

役割は「現場取り付け要員」。
取り付けがない日だけ、工場の手伝いに入る。

いわば、応援要員だ。

工場全体の流れを理解し、
責任を持って判断し、
工程を管理する立場の人間は、相変わらず私一人。

人数は増えた。
でも、「責任を分け合える人」は、増えていない。


4. 正しいのは「指示」か「常駐」か

社長の主張は明確だ。

「指示が良ければ現場は回る。
余分な管理職はコストの無駄だ」

一方で、私の考えも変わらない。

「トラブルを未然に防ぎ、品質を保つには、
現場を熟知した人間が常駐すべきだ」

どちらが正しいのか。
議論の余地はあるだろう。

ただ、答えはすでに現場に出ている。

私が不在の間に起きる、小さなミス。
判断を仰げず、不安そうな顔をするパートさんたち。
積み重なったズレ。

そしてそのすべては、
夜遅くに工場へ戻ってきた私に、まとめて降りかかる。


結び:孤独な「中継ぎ」を、いつまで続けるのか

ミスが起きれば、
「指示が足りない」と言われる。

声を上げれば、
「文句が多い」と受け取られる。

気づけば、
現場と経営の間に立たされ、
どちらからも殴られる「中継ぎ役」になっていた。

これは教育の問題でも、
努力の問題でもない。

構造の問題だ。

私は、いつまでこの「無理ゲー」の審判を
一人で務め続けなければならないのだろう。

今日もまた、
誰もいない工場で、指示書を書き直しながら思う。

ここに落ちているのは、
紙切れじゃない。
少しずつ削れていく、私の心そのものだ。

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